
2023年 ビデオインスタレーション
室内から窓の外へ向けて映像が投影されている。しかしスクリーンがないため映像はどこにも表示されていない。投影された映像を見るには鑑賞者がプロジェクターの前に手をかざすなど、自分から行動を起こさなくてはならない。プロジェクターの前に手をかざすと、3.11後に私がうつ病の治療をしていた時に書いた日記が映し出される。その日々はスクリーンのない映像のように、存在するのに誰にも気付いてもらえないものだった。普段見過ごされてしまう見えないものや、声なき者たちの存在にもっと能動的に触れてほしいと考え制作した。
2011年に起きた東日本大震災は、これまでの日本の美術の考えを大きく変える出来事だった。美的な問題を追及してきた流れが一変し、チームで作品を制作するコレクティブやアートプロジェクトなど社会的な作品が多くなった。その陰で、震災後にうつ病と診断された私は10年近く創作活動を休止しなくてはならなくなり、社会とのつながりが途絶えてしまった。その間に生まれた表現は誰の目に留まることもない。多くの作家が他者や社会へ向かう一方で孤立するしかなかった自分の記録も震災に影響を受けた表現の一つとして残したい。


